夏に読む、ゆうれいの話 白岩玄『空に唄う』

空色のバックに羽のようなもの、その上に水滴1つ

「私、死んじゃったんですか」
 

23歳の新米僧侶、海生(かいせい)が葬儀デビューを果たしたその夜、亡くなったはずの女子大生が現れた。おそるおそる尋ねる海生。「…碕沢さんですよね?」「はい」「…お亡くなりになりましたよね?」「やっぱりそうなの?」
 

 白岩玄(しらいわ げん)の小説『空に唄う』(河出文庫)に描かれるゆうれいは、あまりゆうれいっぽくない。この世にうらみを残して化けて出たどころか、自分が死んじゃったことさえよくわかっていない。しかも、碕沢さんは、とても美人だ。
 

 碕沢(さきさわ)さんが言うには、自分の姿が見えるのは海生だけ。寒さも痛みも感じない。身の回りにあるものを自分の力で動かすこともできない。つまり、彼女が頼れるのは、この世に(という言い方もヘンだけど)海生ただ一人ということだ。碕沢さんは海生の部屋に住むようになる。海生は思う。
 

「こんなときにバカみたいな感想だけど、彼女は美人だ。いろんなことをすっ飛ばしてそう思ってる自分が情けなかったが、目に映る現実が作り出す感情は正直で、あらがうことができなかった。彼女は美人だ。でも死んでいる。そして僕にどうしたら信じてくれるのかを尋ねている。」

空に唄う表紙 若い女性が立っているところがセピア色で描かれている
 

 このせつなく、こっけいな小説が同時にひどくつめたい印象を与えるのは、白岩玄が海生のかわいい感じ、悪く言えばバカっぽさをきちんと距離をおいているからだ。僕に何かしてあげられることがあったら、言ってくださいね。そう海生はくり返す。そして碕沢さんのリクエストがなくても海生は碕沢さんにいろいろなものを買い与える。そして、そのたびに碕沢さんはとまどいの表情を見せる。一見、そうは見えないんだけど、この小説、実はこわい。読みながら、何度かぞくっとする感覚におそわれた。死者とつきあうことの二面性がリアルに描かれているのだ。彼女はもう死んでるんだよね。 
 

 海生は碕沢さんのとまどいの意味を理解することができるだろうか。そして、二人の運命は!?
 

 白岩玄は、2004年『野ブタ。をプロデュース』で小説家デビュー。翌年には木皿泉(きざら いずみ)脚本、亀梨和也、山下智久、堀北真希主演でドラマ化された(朝の連続ドラマ『とと姉ちゃん』で話題の高畑充希も出てる!)ので、知ってる人も多いと思う。原作とドラマはかなりストーリーが違っていて、比べてみるのもおもしろいと思う。ドラマ『野ブタ。をプロデュース』の脚本を担当した木皿泉は寡作ながら、『すいか』『Q10』などの代表作で知られる人気脚本家。白岩玄は『文藝別冊』の木皿泉特集に短い文章を寄せているが、ドラマ『野ブタ。をプロデュース』に対する複雑な思いを率直に書いている。白岩玄の『空に唄う』は、木皿泉版『野ブタ』への回答かもなあ。

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