『小さいおうち』表紙 オレンジ色の地にクリーム色の円。中に男性と女性。

 『かめくん』を読みながら、戦争と日常というテーマについて考えているとき、思い出したのが中島京子(なかじまきょうこ)の『小さいおうち』(文春文庫)だ。2年前(2014年)山田洋次監督によって映画化されたので、知っている人も多いと思う。『小さいおうち』も戦争と日常の関係を考えるうえでおもしろい小説だ。
 

 昭和の初め、尋常小学校を卒業し、山形から上京したタキは、女中として平井家に奉公する。平井家は、おもちゃ会社の重役である夫と若く美しい妻の時子、小学生の息子恭一の3人家族。その家族が住んでいるのが東京の郊外にある赤い三角屋根洋館、すなわち「小さいおうち」である。タキはそこを「終の棲家(ついのすみか)」と思い定めるほど、大好きだった。続きを読む

『かめくん』書影 グレイにオレンジ色で書かれた少女が振り返っている

 北野勇作(きたのゆうさく)の『かめくん』(河出文庫)はとても不思議な小説だ。かめくんはクラゲ荘という木造二階建てのアパートに住んでいる。アパートの管理人、ハルさんには「なんだ、カメかい」なんて言われもしたけど、入居できたのは、ちゃんと仕事をしているからだ。ふだんは倉庫作業員としてフォークリフトを操作しているが、ときに木星からの荷物に紛れ込んでくる巨大生物ザリガニイと戦ったりもする。仕事帰りには、駅前の商店街で買い物をする。休みの日には図書館に行く。図書館にはミワコさんがいる。レプリカメの研究をしているミワコさんにかめくんはときどき協力する。
 
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空色のバックに羽のようなもの、その上に水滴1つ

「私、死んじゃったんですか」
 

23歳の新米僧侶、海生(かいせい)が葬儀デビューを果たしたその夜、亡くなったはずの女子大生が現れた。おそるおそる尋ねる海生。「…碕沢さんですよね?」「はい」「…お亡くなりになりましたよね?」「やっぱりそうなの?」
 

 白岩玄(しらいわ げん)の小説『空に唄う』(河出文庫)に描かれるゆうれいは、あまりゆうれいっぽくない。この世にうらみを残して化けて出たどころか、自分が死んじゃったことさえよくわかっていない。しかも、碕沢さんは、とても美人だ。
 
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